私が自宅を建てたいと思っていた頃、よく読んでいた住宅雑誌に、北カリフォルニアの海岸沿いに“シーランチ”という別荘地帯があると紹介されていました。
海に面した断崖の上の斜面というハードな立地で、太平洋の荒波が押し寄せ、暴風が吹くこともあります。そこに建築家チャールズ・ムーアがデザインした板張りの、海風を受け流すように傾斜した屋根の、積木のような外観の木造建築があります。
その建物は強風に耐えるよう軒や庇がほとんど無く、納屋の形をベースとしていて周囲の景観にもなじんでいました。素材は地元で採れるレッドシダーを内外装で使い、木の経年変化を味わえるようになっているのです。
外壁で使われるレッドシダーはよく「米杉」と呼ばれますが、実はヒノキ科の植物なのです。最初は黄色味がかった褐色で風雨にさらされ紫外線に当たると色が褪せ、シルバー色になりやがて濃い茶色もしくはグレーに変化していくのです。
それが、どの家も均一ではなく立地、建物の方位によってそれぞれ風合いの違いが出てくるのです。それを比べながらレッドシダーの家をウォッチして歩くのが当時の私の楽しみでした。
この記事を読んでから、湘南の周りにはレッドシダーの外壁を使ったシーランチをオマージュした家を建てる工務店がいくつかあることを知ったのです。その元祖ともいえるこの家を建てたのは1970年代から続く、現在は鎌倉山にある「技拓」なのです。
私は当時からこの家も意識していました。建物はもちろんレッドシダーの下見張りの外壁、日当たりがとても良い立地なので外壁がいい感じで経年変化しています。鎌倉山の西に眺望がすばらしく抜けている立地なので住んだらさぞかし気持ちの良い家なんだろうなと思って見ていました。
写真は売主様から拝借したものですが、ご覧ください。ため息がでるほどすばらしい。経年で味が出た外観、内装は技拓のアイデンティティであるレッドシダー張りの天井、飴色になった無垢の床材、ドライウォールの壁、そして鎌倉山の西の眺望。
永遠の憧れでした。
部屋のレイアウトは2階に大きなLDKで、勾配天井をおおいに生かしてレッドシダーを全面に張り、窓はすべり出しの大きなものが採用されています。バルコニーに出れば相模湾、伊豆半島、富士山を眺めることができます。
リビング・ダイニングを見渡せるキッチン、写真にはありませんが背後には納戸と書斎があります。1階は主寝室と南側に子供部屋、浴室・洗面・トイレが配置されています。
駐車場は2台分のスペースがあります。現地は鎌倉山の中でもバス停留所からさらに坂を上ります。
実は私自身もこの「技拓」の流れを汲む工務店がてがけた家に住んでいます。この素晴らしさはぜひ現地をご覧になり、30年近い時を経てエイジングされた無垢の素材の気持ち良さを実感していただきたいものです。 |