column 2022.2.17
 
鎌倉団地に暮らすひと

第3回・小林幹也さんの退去編

渡辺麻里子(鎌倉R不動産)
 

「鎌倉R不動産」がプロデュースする「鎌倉団地」に暮らすひとをご紹介するコラム。
第3回は、いきなりですが退去編です! 家具やプロダクト、インテリアまで幅広くデザイナーとして活躍する小林幹也さんが、この1月末に退去されました。約1年半セカンドハウスとして住んでいただいた小林さんに、「鎌倉団地」のことを改めて聞いてみました。

鎌倉団地に暮らすひと 第1回
鎌倉団地に暮らすひと 第2回

退去時の室内。小林さん自らDIYを行った。壁には自身がデザインしたクロスを貼っている。

まだまだ名残惜しい。そんな気持ちと、次のステップへのワクワクする気持ちと。それらが混ざりあったような表情をしているように思えた小林さん。小林さんは、約1年半この「鎌倉団地」に住み、内装のDIYをし、そして今回退去することを決めました。

「鎌倉団地」に住み始めた時の記事は、こちらから

小林さんの退去時の部屋は、引渡し時から雰囲気が大きく変わっていました。自身がデザインしたクロスを貼った壁と天井。キッチンまわりには収納を付け加え、寝室として使っていた部屋にはテレビに合わせて棚を設置しました。
もともとの引渡しの状態である程度世界観ができていたので、そこに付け加えるイメージで内装をデザインしたといいます。水まわりの設備が新しくなっていたので、築古のマンションでも自分としては「ほぼ新築」というイメージだった、とのこと。それだけ、水まわり設備が更新されているという点は、こうしたDIY可の賃貸物件ではプラスに働くようです。

小林さんが手を加えたキッチン。導線が使いやすかったという。窓からは裏の緑が見える。

間取り(特にキッチンまわり)がとても使いやすく、生活しやすかったとコメントしてくれました。また、周辺環境もとても気に入っていて、団地に来る時にはほぼ周辺だけで暮らしが成り立ったそうです。少し歩けばスーパーもあるし、飲食店もある。なかでも「POMPON CAKES(ポンポンケークス)」は来るたびに何度も(多いときは1日に2回!)通っていたそう。ケーキをはじめ全メニューを制覇し、モーニングにも顔を出す常連です。お店の方とももちろん顔なじみで、鎌倉を離れても絶対にまた来たいといいます。

小林さんの行きつけ。梶原にある「POMPON CAKES(ポンポンケークス)」の店内。

団地はとても住み心地が良かったといいます。自然に近い感じがして、特に春から夏にかけての景色は特に美しいそうです。春は桜並木が綺麗で、初夏から夏には緑が濃くなりセミの声が響く。四季の移ろいを身近に感じ、鎌倉での暮らしをスタートさせて本当に良かったと思う瞬間でした。団地から海へジョギングにでかけることもあったそう。片道約5Kmのコースを走るのですが、その中で鎌倉の他のエリアにも土地勘ができ、もっといろいろなエリアに住んでみたいと思い始めたのだそう。

DIY可の賃貸物件は、まだまだ日本の不動産市場では少ないのです。その中で、今回はDIYした内容はそのままに退去することが決まりました。海外では、家を住み継ぐことへの意識がとても高く、親子3代に渡って住み継ぎ、物件価値が上がっていくことが多いのですが、日本では逆です。地震が多い国なので、そもそも建物の耐久年数についても知見もまだ溜まっていないといえばそうですし、いまだに「新築戸建を持って一人前」という価値観も根強いです。そんな市場の中であっても、今後も古いものを住み継ぎ、その良さを継承していくというのは、ひとつのスタイルとして定着するでしょうし、それは売買に限らず賃貸の市場でも貸主の考え方、また借主の志向次第で大きく変わることだと思います。

もともとはコルクタイル敷きだった部分には、土間タイルを敷き直した。

この区画に次に住む人はどんな人だろう。そんな話になったときにも、小林さんとしては自分の行ったDIYをぜったい引継いでというよりは「自分が思うように変えたらきっと面白いから、自由にやってみて」と言ってくれました。自ら施工されているので、この言葉はとても説得力があります。前の借主の行ったDIYで好きなところを残し、自分らしくカスタムを付け加えていくというのもとても面白い作業でしょう。

退去にあたり、次に住む場所も鎌倉で探したいという小林さん。心残りと言えば、もっと住んでいる間に団地の魅力を広めたり、再生とまではいかなくても、団地のためになることができたら良かった、と話します。(住んでみて分かったことですが、子どもが意外と多いのと、空家が手付かずで放置されているようだということがわかったといいます。)
団地にパン屋や本屋を呼ぶとか、住民が気軽に集まれるような場を設けるとか。団地を離れても、いつかそういう計画を実行してみたいと話してくれました。

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